たとえば胸騒ぎ

私を構成するいくつかの、あの時と今とこれからと。あるいはそのカケラ。

ビニール傘

 

高校の修学旅行で行った

池袋のサンシャインの展望階の

案内係のおじちゃんが

雨で洗らわれたあとのまちは

美しく見えるんだよ

教えてくれた。

 

特に

嵐の翌日は

うんと綺麗なんだと。

 

それからというもの

夜が美しい日には

ああ

雨が洗ってくれたんだな

思うようになった。

 

仕事が終わって外に出ると

今日の雨は

もうやんでいた。

 

マンションの廊下に面した窓の桟に

母親の赤い傘がかかってあって

その隣に

自分の青い傘をかける。

並んだ二本の傘。

 

視線の先には

最近あるじを亡くされた別の窓にかかる

一本のビニール傘。

 

タバコを吸いにベランダに出ると

夜のまちは

まだ少しにじんでいて

水中めがねごしに見る世界のようだった。